「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑰

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私達はソファーの上で抱きしめ合う。

クッションを背にする私の上に、智が寝そべる。

この重さ、温もりが心地いい。

先ほどまでの熱情を、ゆっくりと溶かしてくれる。

私はそっと智の髪を撫でる。

智は私の胸に頬を寄せ、私の鼓動を聞きながら微笑む。

「……何を笑っている?」

「ん……幸せだなと思って……。」

そう言って、智が柔らかく笑う。

その顔が愛おしくて、智の額に唇を落とす。

「私もだよ……。」

智が嬉しそうに笑って、髪を撫でている私の手を握る。

指を絡め、私の手を見ていた智が、あ……と小さく声を上げる。

「ん?」

私が智を覗き込むと、顔を上げた智が、心配そうに眉間に皺を寄せる。

「これ……。」

私の手を開いて、私に見せる。

手の平には切れた跡。

赤く小さなそれは、智と潤を見た時のもの……。

「痛そう……。」

傷が付くほど握り込んだ右手……。

もう、ずいぶん前のことのような気がする。

智が傷跡に口づける。

「智……。」

「早く治ればいい……。翔さんのきれいな手が……。」

智は舌を出してペロッと舐める。

くすぐったさにゾクッとする。

「消毒しなくちゃ……。」

智はペロペロと舐め続ける。

私は手を握って智から逃げる。

「大丈夫だから……。それ以上されると……私はまた智を可愛がってしまう……。」

智がクスッと笑う。

「だったらもっと消毒しなくちゃ。」

楽しそうに、私の手を両手で広げ、そこに唇を当てる。

私はその手で、智の頭を私の胸に引き寄せる。

胸に抱き、その頬を、髪を撫でつける。

「翔さん……。」

智の手が、私の鎖骨を撫でる。

見上げる智が、嬉しそうに笑う。

愛おしさが、次から次へと溢れ出て、穏やかな中に満ち満ちる幸せ……。

この時間がこの世の全てで、世界が二人だけのもので……。

でも、私達は知っている。

この時間が続かないことを。

私達は……誰からも祝福されない関係だということも。



それから私達は時間を見つけては逢瀬を重ねた。

それは、温室の作業部屋だったり、撞球場の通路だったり、

滅多に使われない物置だったりしたが、会えば必ず体を重ねたくなる。

次にいつ会えるか(体を重ねることができるか)わからない、

これが最後になるかもしれない、

そんな刹那的な感情が、私達を激しく淫らに駆り立て、私も智も相手を求めた。

智は必ず体の準備をしてきてくれたから、会ってすぐに体を繋ぐこともしばしばだった。

時には立ったままであったり、廊下を歩く足音に、ハンケチを噛みしめたり……。

一度などは、智の部屋で繋がっている時に声を掛けられ、

私は息をひそめ、なんとかやり過ごしたこともあった。

そんな危うい境遇も、私達をのめり込ませる要因だったのかもしれない。

そんな私達だったから、普段だったらすぐに気づかれそうなものだが、

屋敷の中は和子の懐妊で浮足だっていたので、

二人の様子が変わったことに気づく者もいなかった。

潤は……どう思っているのだろうか。

私は部屋の窓から庭を眺めて、潤を探す。

潤はバラの葉の中で、何か作業をしている。

智が話をしたと言っていたが、なんと話したのかはわからない。

きちんと納得してくれていれば良いが……。

部屋のドアがノックされる。

私は椅子に座って返事をする。

「はい。どうぞ。」

「あなた、病院から戻って参りました。」

入ってきたのは和子だった。

和子のお腹は目立ってきて、ほっそりしていた体が、妊婦らしくなっている。

「先生は何と?」

「順調ですって。もう安定期に入りましたから、つわりも治(おさ)まるだろうって。」

和子がにこやかに笑う。

「そうか。……疲れただろう?ゆっくり休みなさい。」

「ええ。でも、体を動かしたいの。もう少ししたら、嫌でも動けなくなってしまうから。」

和子は愛おしそうにお腹を撫でる。

「いいから。家のことは他の者に任せて。和子は座って音楽でも聞いて……。」

私は立ち上がり、蓄音機に向かう。

「何がいい?ブラームス?ショパン?」

レコードを手にする私のの腕に、和子が手を添える。

「私は……本当に幸せです。」

見上げる和子の薄茶の瞳に、ズキッと胸が痛む。

「だから……。」

和子が言い掛けると、ドアがノックされる。

「はい。」

反射的に返事をし、二人同時に振り返る。

静かに開いたドアから、雅紀が顔を出す。

「翔さん……公爵がお呼びです。」

「公爵?……わかった。すぐに行く。」

レコードをしまい、和子の肩に手を掛け、笑う。

「行ってくる。無理せず、ゆっくりするんだよ?」

「わかってますわ。」

和子もニコッと笑う。

だが、その顔に何かを感じ、行きかけた足を止める。

「何か……話があったのではないのか?」

「……ええ……でも、まだ時間はありますから。」

「まだ?」

和子は複雑そうな顔で笑う。

「ほら、父が待ってますわ。早く行かないと。」

私の背を押し、雅紀を見る。

「雅紀さん、ちょっとお願いがあるの。」

「はい?」

「糸が買いたいの。連れて行ってくださらない?」

「構いませんが……。」

雅紀がチラッと私を見る。

私は雅紀の横を通り過ぎながら、雅紀の肩を叩く。

「では、和子をよろしく頼みます。くれぐれも無理はさせないように。」

「もちろん。和子さんはすぐに無理をしたがるから。」

雅紀もニコッと笑う。

「帰りに甘いものでも食べてくるといい。」

「ええ、そうね。そうするわ。」

和子と雅紀に手を上げ、私は公爵の元へ急いだ。










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