「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑮

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月明かりもほとんどない中、屋敷からの明かり、遠くの街灯の明かりで、

二人の姿が仄かに浮かび上がる。

東屋のベンチに腰かけているのは潤?

智の体は潤の膝の上で、細い体をベンチの上に投げ出している。

「んっ……あぁ……智様……。」

「……潤…………。」

潤の腕に体を預け、抱きしめられながら口づけを交わす智。

潤の厚い胸に顔を預け、それを撫でるように手を添えている。

もう片方の手を甘えるように潤の背に回し、精悍な腕が智をさらに抱きすくめる。

私の心臓がドクッと一度、大きくうねる。

熱いものがほとばしる。

「……本当に……ぁっ……んぅ……オレでいい…の?」

「んっ……はふぅ……あんっ………潤が…いい……んっ…ぁんっ。」

「智様……智……さ……まぁ……んんっ……。」

激しく口づけを交わす二人を見ながら、私は両手を握り締める。

ギリギリと音を立てそうなほど激しく握り込んで、手の平に爪が食い込む。

私は思わず大声を上げる。

「止めろ!何をしているんだ!」

びっくりした二人が唇を離し、私を見る。

「……若…旦那様…………。」

「…………。」

智は無表情で私を見ると、潤の胸に顔を戻す。

「こんなところで破廉恥(ハレンチ)な……。」

「ハレンチ?僕がしたいんだから、いいだろう?

 翔さんにとやかく言われる筋合いはない……。」

「智……。」

私の手が勝手に智に伸び、その手を見てハッと思い返し、自分の胸に引き戻す。

ダメだ。

私は和子の夫だ。

この家を継ぐのだ。

それを見た智が、潤の首に手を伸ばし、引き寄せて口づける。

「……ん!……智様……。」

潤は慌てて智を離そうとする。

それでも、潤の口に吸い付いたままの智に根負けするように、

だんだんと潤の腕も智を引き寄せる。

「や、止めろ。」

私の声など耳に入らないのか、智と潤の口づけが激しくなる。

「止めろ!」

私の腕が智を引き離す。

引き離した智を抱き込み、潤を見下ろす。

「若旦那様……。」

潤は立ち上がり、私の腕の中の智を見つめ、私に向かって言う。

「若旦那様は智様をどうするおつもりですか?」

「どうするって……。」

ハッと我に返り、腕の力を緩める。

「一度……オレの前から連れ去りました。

 でも、智様は泣いておられた……。

 また智様が泣くのであれば……オレ…黙って連れ去られるわけにはいかない。」

「潤……。」

切なそうに潤を見上げる智。

そうだ……。

私に何ができる?

智を連れ去り……また泣かせるのか?

私が戸惑っていると、潤の太い腕が伸び、智の腕を掴む。

「あっ……。」

私の腕をすり抜け、智が潤の胸へ戻って行く。

そうだ。これでいいんだ。

私といるより、智は幸せに違いない。

私といるより……。

ぎゅっと締め付けられるような胸の痛み。

「智様……。」

潤は智を抱きしめ、唇を合わせる。

まるで早くここから立ち去れと言っているみたいで、

私の胸が、ドクドクと音を立てて痛み出す。

智が、誰かの腕の中にいる……。

それだけのことが、こんなに私を苦しめる。

智はこれからも潤と口づけし、潤に抱かれるのか?

智…………。

徐々に激しくなる二人の口づけ。

ドクドクと高鳴る胸の音。

血が沸き立つような感覚……。

ぎゅっと締め付けられるような苦しさ。

それらがどんどん大きくなって……私は智の腕を掴み、グッと引き寄せる。

「ダメだ!……智は誰にも渡せない…………。」

私は智の腕を掴んだまま走り出した。

暗がりの中、温室を横切り、バラの間を抜け、無我夢中で走った。

振り返ると、智も息を上げて私を見上げる。

私はさらに走り撞球場の扉を開けた。

智を引きずるように中に入れる。

扉の閉まる音がして、荒い息を吐きながら、私は智を抱きしめる。

「はぁはぁ……ダメだ……誰かの胸に抱かれるなんて……。」

「……翔さん……はぁっ……。」

私は思い切り智の唇を貪る。

激しく舌を絡め、智の体を抱きしめる。

このまま一つに溶け合ってしまいたい……。

そうすれば、智が誰かのものになることも、私の胸の苦しみも、

消えてなくなってしまうのに……。

「智……さとし……んっ……。」

力の限り抱きしめる。

細い智の体が折れてしまいそうなほど強く。

「んっ……翔…さん……あぁ……んぁっ……。」

「智……。」

この胸に溢れ出す感情。

止めることのできないこの感情は、いったい何と言うのだろう。

気付くと、智の目から涙がこぼれている。

「智……?」

私はゆっくりと唇を離し、智を見つめる。

「……潤が……いいのか?」

恐る恐る智の頬の涙を拭う。

この涙が潤へのものなら……私は諦めることができるのか?

智が小さく首を振る。

「ではなぜ……?」

「……僕は……翔さんから離れられないんだ……と思って……。」

「智……。」

「潤と口付けても、抱きしめられても……翔さんを思い出す……。

 僕は……翔さんじゃないとダメなんだ……。」

智は涙を流しながら小さく笑う。

その顔を見て、胸がギュッと締め付けられる。

「私だって……。」

「……私だって……?」

見上げる智の潤んだ瞳……。

「智が誰かと口付ける、抱きしめられる……そう思うだけで、

 胸が苦しくなる……。」

「翔さん……。」

智の目が不思議そうに私を見つめる。

「苦しくて、苦しくて……これはなんと言う感情なのだろう?」

私は智を抱きしめる。

ぎゅっと抱きしめると、胸の苦しみが徐々に和らいでいく。

「……それは、きっと僕と同じ……。」

智が私の耳元で囁く。

「……愛…………。」

私はそっと智を離し、唇を合わせる。

仄かな月明かりが、涙に濡れた智の顔を照らす。

私はその頬に両手を添える。

これが愛……。

「翔さん……。」

「……愛してる……智…………。」

私はじっと智を見て、智の唇に唇を重ねた。

……離れらないのは、私だ。

もう……きっと………………。










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