「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑭

 ←Love so sweet №66 →三日月 ⑮
和子の懐妊を公爵に報告すると、瞬く間に屋敷中、親戚中に知れ渡った。

父からも連絡を受け、兄からも祝いの言葉が贈られた。

公爵に至っては、生まれる前にも関わらず、パーティを開いて盛大に祝おうと言うしまつ。

私と和子は顔を見合わせ、丁重にお断りする。

和子はまだ妊娠したばかり。

妊娠初期は流産しやすい。

まして、和子は初めての懐妊。

慎重に慎重をきたさなければ。

私は再度、使用人を増やそうと提案した。

だが、和子はガンとして首を縦に振らず、人を増やすなら生まれてからがいいと言う。

それでは遅いから言っているのに。

「まだこの子は不安定。安定してから考えましょう。」

母になった和子はことさら強い。

有無を言わせぬ強固な表情に、私は引き下がるしかなかった。



その日は珍しく、智が夕食に顔を出した。

和子の懐妊は智の耳にも届いていて、嬉しそうに和子のお腹を撫でる。

「うふふ。まだ触ってもわからないわよ。」

和子も嬉しそうに智を見上げる。

「でも、ここに、翔さんと姉様の子供がいるのでしょう?」

「ええ、そうよ。」

「不思議だね……これから大きくなっていくんだ……。」

「そうね。早く大きくなって欲しいわ。」

和子は智に笑いかける。

「男の子なの?それとも女の子?」

「まだわからないわ。それより智、もう少し食べて。それでは体がもたないわ。」

智は不満そうに和子に皿を見せる。

「こんなに食べてるのに?姉様は僕を太らせたいの?」

「ええ、できるなら太らせたいわ。お相撲が取れるくらいに。」

「それは太りすぎだろう。家を改築しなくてはならん。」

公爵も声を立てて笑う。

和子の懐妊が、家族を笑顔にしていく。

仲睦まじい姉弟の様子に、複雑なのは私だけだ。

智は、和子の懐妊をどう思っているのだろうか。

「どっちに似てるのかなぁ。」

智がポツリとつぶやく。

和子はクスッと笑って言う。

「翔様に似て頭のいい子が生まれるわ。」

和子が私を見る。

「君に似て、美しい子が生まれるよ。」

私も笑い返す。

「そうね……きっと智にも似ているわ。」

和子が智に視線を投げると、智はワインを口に含んで笑う。

「そうかな。僕になんか似ない方がいいのに。」

「どうして?智ほど綺麗な子はそうそういないわ。

 似た子が生まれたら、とっても嬉しいのに。ねぇ、あなた?」

「あ、ああ、もちろんだよ。」

私はそれ以上言葉が続かない。

智に似た子が生まれたら……。

私はその子を冷静に見ることができるのか?

「……ふふ。翔さんは僕に似て欲しくないみたいだよ。」

智がグビッとワインを飲んでテーブルに置く。

「そ、そんなことはないよ。君に似てたら嬉しいに決まってる……。」

「……本当?」

智が真っ直ぐ、私を見据える。

その瞳は複雑に揺れていて、智が何を考えているのかは、やはりりわからなかった。

「……もちろん。」

私はパンを契って口に放り込む。

これ以上しゃべってなどいられない。

もし本当に智に似ていたら……。

私はその子を溺愛し、手放せなくなるだろう。

男でも、女でも……。

智は立ち上がり、窓の外を見上げる。

「もうご馳走様?」

和子が少し不満そうに智の皿を眺める。

「うん……もうお腹いっぱい……。」

智はみんなを見回し、ご馳走様と部屋を出て行く。

「いやぁ、翔君、とにかくめでたい。」

「はい。」

公爵は自らワインを私に勧め、自身にも注いでいく。

「ありがとうございます。」

私は勧められるまま杯を重ね……。

途中、リビングに場所を移し、飲み続けると、

気付けば隣に和子はおらず、公爵も部屋に戻り、ほぼ酩酊状態で窓の外を見上げる。

酔った目に、細く輝く月がぼんやり見える。

「今宵は三日月か……。」

窓からは、明かりの消えた撞球場も見える。

私は行きたい気持ちを堪え、庭に目をやる。

もう、撞球場に行ってはいけない……。

智と二人で会ってはいけない……。

「智……。」

初恋は実らぬものだと言う。

その通り。

私の初恋も……儚く散るだけだ。

私はすぐに部屋に戻る気にはなれず、庭に出る。

当分、寝所に和子が来ることもないだろう。

屋敷から漏れる明かりを頼りに、バラの間を抜けていく。

夜風が心地いい。

東屋で少し涼もうかと思った時、どこからか、あのクスクス笑いが聞こえてくる。

……こんなところで?

私はキョロキョロと周りを見渡す。

シーンと静まり返り、人のいる気配などない。

しかし、しばらくするとまたクスクスと聞こえてくる。

酔って、幻聴でも聞いているのだろうか?

東屋に向かって進んでいくと、今度はクスクス笑いの他に、低くつぶやく声も聞こえてくる。

「だ……すき……す…………オレ……っ………す……。」

「いい…………じゅ……。」

この声は……潤と……智?

私は音を立てぬよう、そっと東屋に近づいた。










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【Love so sweet №66】へ  【三日月 ⑮】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【Love so sweet №66】へ
  • 【三日月 ⑮】へ