「三日月」
三日月(やま)【1~20】
三日月 ⑭
2016.06.15 *Edit
和子の懐妊を公爵に報告すると、瞬く間に屋敷中、親戚中に知れ渡った。
父からも連絡を受け、兄からも祝いの言葉が贈られた。
公爵に至っては、生まれる前にも関わらず、パーティを開いて盛大に祝おうと言うしまつ。
私と和子は顔を見合わせ、丁重にお断りする。
和子はまだ妊娠したばかり。
妊娠初期は流産しやすい。
まして、和子は初めての懐妊。
慎重に慎重をきたさなければ。
私は再度、使用人を増やそうと提案した。
だが、和子はガンとして首を縦に振らず、人を増やすなら生まれてからがいいと言う。
それでは遅いから言っているのに。
「まだこの子は不安定。安定してから考えましょう。」
母になった和子はことさら強い。
有無を言わせぬ強固な表情に、私は引き下がるしかなかった。
その日は珍しく、智が夕食に顔を出した。
和子の懐妊は智の耳にも届いていて、嬉しそうに和子のお腹を撫でる。
「うふふ。まだ触ってもわからないわよ。」
和子も嬉しそうに智を見上げる。
「でも、ここに、翔さんと姉様の子供がいるのでしょう?」
「ええ、そうよ。」
「不思議だね……これから大きくなっていくんだ……。」
「そうね。早く大きくなって欲しいわ。」
和子は智に笑いかける。
「男の子なの?それとも女の子?」
「まだわからないわ。それより智、もう少し食べて。それでは体がもたないわ。」
智は不満そうに和子に皿を見せる。
「こんなに食べてるのに?姉様は僕を太らせたいの?」
「ええ、できるなら太らせたいわ。お相撲が取れるくらいに。」
「それは太りすぎだろう。家を改築しなくてはならん。」
公爵も声を立てて笑う。
和子の懐妊が、家族を笑顔にしていく。
仲睦まじい姉弟の様子に、複雑なのは私だけだ。
智は、和子の懐妊をどう思っているのだろうか。
「どっちに似てるのかなぁ。」
智がポツリとつぶやく。
和子はクスッと笑って言う。
「翔様に似て頭のいい子が生まれるわ。」
和子が私を見る。
「君に似て、美しい子が生まれるよ。」
私も笑い返す。
「そうね……きっと智にも似ているわ。」
和子が智に視線を投げると、智はワインを口に含んで笑う。
「そうかな。僕になんか似ない方がいいのに。」
「どうして?智ほど綺麗な子はそうそういないわ。
似た子が生まれたら、とっても嬉しいのに。ねぇ、あなた?」
「あ、ああ、もちろんだよ。」
私はそれ以上言葉が続かない。
智に似た子が生まれたら……。
私はその子を冷静に見ることができるのか?
「……ふふ。翔さんは僕に似て欲しくないみたいだよ。」
智がグビッとワインを飲んでテーブルに置く。
「そ、そんなことはないよ。君に似てたら嬉しいに決まってる……。」
「……本当?」
智が真っ直ぐ、私を見据える。
その瞳は複雑に揺れていて、智が何を考えているのかは、やはりりわからなかった。
「……もちろん。」
私はパンを契って口に放り込む。
これ以上しゃべってなどいられない。
もし本当に智に似ていたら……。
私はその子を溺愛し、手放せなくなるだろう。
男でも、女でも……。
智は立ち上がり、窓の外を見上げる。
「もうご馳走様?」
和子が少し不満そうに智の皿を眺める。
「うん……もうお腹いっぱい……。」
智はみんなを見回し、ご馳走様と部屋を出て行く。
「いやぁ、翔君、とにかくめでたい。」
「はい。」
公爵は自らワインを私に勧め、自身にも注いでいく。
「ありがとうございます。」
私は勧められるまま杯を重ね……。
途中、リビングに場所を移し、飲み続けると、
気付けば隣に和子はおらず、公爵も部屋に戻り、ほぼ酩酊状態で窓の外を見上げる。
酔った目に、細く輝く月がぼんやり見える。
「今宵は三日月か……。」
窓からは、明かりの消えた撞球場も見える。
私は行きたい気持ちを堪え、庭に目をやる。
もう、撞球場に行ってはいけない……。
智と二人で会ってはいけない……。
「智……。」
初恋は実らぬものだと言う。
その通り。
私の初恋も……儚く散るだけだ。
私はすぐに部屋に戻る気にはなれず、庭に出る。
当分、寝所に和子が来ることもないだろう。
屋敷から漏れる明かりを頼りに、バラの間を抜けていく。
夜風が心地いい。
東屋で少し涼もうかと思った時、どこからか、あのクスクス笑いが聞こえてくる。
……こんなところで?
私はキョロキョロと周りを見渡す。
シーンと静まり返り、人のいる気配などない。
しかし、しばらくするとまたクスクスと聞こえてくる。
酔って、幻聴でも聞いているのだろうか?
東屋に向かって進んでいくと、今度はクスクス笑いの他に、低くつぶやく声も聞こえてくる。
「だ……すき……す…………オレ……っ………す……。」
「いい…………じゅ……。」
この声は……潤と……智?
私は音を立てぬよう、そっと東屋に近づいた。
父からも連絡を受け、兄からも祝いの言葉が贈られた。
公爵に至っては、生まれる前にも関わらず、パーティを開いて盛大に祝おうと言うしまつ。
私と和子は顔を見合わせ、丁重にお断りする。
和子はまだ妊娠したばかり。
妊娠初期は流産しやすい。
まして、和子は初めての懐妊。
慎重に慎重をきたさなければ。
私は再度、使用人を増やそうと提案した。
だが、和子はガンとして首を縦に振らず、人を増やすなら生まれてからがいいと言う。
それでは遅いから言っているのに。
「まだこの子は不安定。安定してから考えましょう。」
母になった和子はことさら強い。
有無を言わせぬ強固な表情に、私は引き下がるしかなかった。
その日は珍しく、智が夕食に顔を出した。
和子の懐妊は智の耳にも届いていて、嬉しそうに和子のお腹を撫でる。
「うふふ。まだ触ってもわからないわよ。」
和子も嬉しそうに智を見上げる。
「でも、ここに、翔さんと姉様の子供がいるのでしょう?」
「ええ、そうよ。」
「不思議だね……これから大きくなっていくんだ……。」
「そうね。早く大きくなって欲しいわ。」
和子は智に笑いかける。
「男の子なの?それとも女の子?」
「まだわからないわ。それより智、もう少し食べて。それでは体がもたないわ。」
智は不満そうに和子に皿を見せる。
「こんなに食べてるのに?姉様は僕を太らせたいの?」
「ええ、できるなら太らせたいわ。お相撲が取れるくらいに。」
「それは太りすぎだろう。家を改築しなくてはならん。」
公爵も声を立てて笑う。
和子の懐妊が、家族を笑顔にしていく。
仲睦まじい姉弟の様子に、複雑なのは私だけだ。
智は、和子の懐妊をどう思っているのだろうか。
「どっちに似てるのかなぁ。」
智がポツリとつぶやく。
和子はクスッと笑って言う。
「翔様に似て頭のいい子が生まれるわ。」
和子が私を見る。
「君に似て、美しい子が生まれるよ。」
私も笑い返す。
「そうね……きっと智にも似ているわ。」
和子が智に視線を投げると、智はワインを口に含んで笑う。
「そうかな。僕になんか似ない方がいいのに。」
「どうして?智ほど綺麗な子はそうそういないわ。
似た子が生まれたら、とっても嬉しいのに。ねぇ、あなた?」
「あ、ああ、もちろんだよ。」
私はそれ以上言葉が続かない。
智に似た子が生まれたら……。
私はその子を冷静に見ることができるのか?
「……ふふ。翔さんは僕に似て欲しくないみたいだよ。」
智がグビッとワインを飲んでテーブルに置く。
「そ、そんなことはないよ。君に似てたら嬉しいに決まってる……。」
「……本当?」
智が真っ直ぐ、私を見据える。
その瞳は複雑に揺れていて、智が何を考えているのかは、やはりりわからなかった。
「……もちろん。」
私はパンを契って口に放り込む。
これ以上しゃべってなどいられない。
もし本当に智に似ていたら……。
私はその子を溺愛し、手放せなくなるだろう。
男でも、女でも……。
智は立ち上がり、窓の外を見上げる。
「もうご馳走様?」
和子が少し不満そうに智の皿を眺める。
「うん……もうお腹いっぱい……。」
智はみんなを見回し、ご馳走様と部屋を出て行く。
「いやぁ、翔君、とにかくめでたい。」
「はい。」
公爵は自らワインを私に勧め、自身にも注いでいく。
「ありがとうございます。」
私は勧められるまま杯を重ね……。
途中、リビングに場所を移し、飲み続けると、
気付けば隣に和子はおらず、公爵も部屋に戻り、ほぼ酩酊状態で窓の外を見上げる。
酔った目に、細く輝く月がぼんやり見える。
「今宵は三日月か……。」
窓からは、明かりの消えた撞球場も見える。
私は行きたい気持ちを堪え、庭に目をやる。
もう、撞球場に行ってはいけない……。
智と二人で会ってはいけない……。
「智……。」
初恋は実らぬものだと言う。
その通り。
私の初恋も……儚く散るだけだ。
私はすぐに部屋に戻る気にはなれず、庭に出る。
当分、寝所に和子が来ることもないだろう。
屋敷から漏れる明かりを頼りに、バラの間を抜けていく。
夜風が心地いい。
東屋で少し涼もうかと思った時、どこからか、あのクスクス笑いが聞こえてくる。
……こんなところで?
私はキョロキョロと周りを見渡す。
シーンと静まり返り、人のいる気配などない。
しかし、しばらくするとまたクスクスと聞こえてくる。
酔って、幻聴でも聞いているのだろうか?
東屋に向かって進んでいくと、今度はクスクス笑いの他に、低くつぶやく声も聞こえてくる。
「だ……すき……す…………オレ……っ………す……。」
「いい…………じゅ……。」
この声は……潤と……智?
私は音を立てぬよう、そっと東屋に近づいた。
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