「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑬

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「翔さんが……僕を無視するから……。」

「智……何を……。」

私は柄にもなく狼狽える。

智も……わかっているのだと、勝手に思い込んでいた。

あれは、一度だけの……。

そうだ。なのにこの胸に溢れるものは何だ?

挙句に智を連れ出した……。

私はいったい何がしたいんだ?

「私達は……。」

智がキッと私を睨む。

「そうだろ?あんな口づけを交わしておいて、その後はしらんぷり?

 確かに一度だけって言った……言ったけど……。

 僕はいったいどうしたらいい?

 この胸のモヤモヤしたものを、どうしたら振り払える?」

智も私と同じ想いを抱えてる?

この胸の中に溢れ出す熱いもの……。

掻き消そうとしても消えてくれない……。

思わず抱きしめようとする腕を、グッと握り締める。

「あの時は……。どうかしてたんだ。」

「どうかって……何?」

見上げた智の目は大きく見開かれ、私の心を掻き乱す。

だが、この熱いものに、身を委ねるわけにはいかない。

「昔の……初恋の思い出が、私を狂わせた……そういうことだよ。」

「違う……。翔さんは僕が好きなんだ。」

私の鼓動が大きく波打つ。

違う……私が好きなのはあの少女だ。

智をあの頃の少女に重ねているだけだ。

「そうじゃない……。私は懐かしさと淡い想い、

 背徳感という美酒に酔っていたにすぎない……。

 君だってそうだ。」

「違う……。」

智の目が潤んでいく。

私は智から目を逸らし、言葉を続ける。

「違わない……。私は和子の夫だ。

 しかも公爵家を継ぐ身だ。君だって……。」

「そうだよ。僕はこの家の長男で、男で……。

 翔さんを好きになるなんておかしいって……。

 そんなことわかってる。わかってるけど……。」

「智……。」

私が智の肩に手を掛けようとすると、智は私を振り切って、母屋に向かって走り出した。

明かり取りから漏れるわずかな光の中、

暗闇に向かって走る智を、私は一、二歩追いかけて、足を止める。

追いかけて……何を言うつもりだ?

走りゆく智の後ろ姿を、見えなくなるまで見つめることしかできなかった。

私は、元来た道を戻って撞球場へ向かう。

扉を開けると、そこに雅紀が立っていた。

びっくりして立ち止まる私に、雅紀が笑いかける。

「ここの掃除を言いつかりまして。」

雅紀は台の上の玉に手を掛ける。

「待って。それはそのままに……。」

「……続けるんですか?」

雅紀は台の上をじっと見て、不思議そうに首を傾げる。

「ああ、どう突こうか考えてるところなんだ。」

「そうですか……わかりました。」

雅紀はニコッと笑って、掃除を始める。

私はそんな雅紀を横目に、庭に続く扉を開ける。

「……焦らないでください……。」

一瞬、誰が言ったのかわからず、周りをキョロキョロする。

「焦らないで。ちゃんと道は開けますから。」

雅紀を見ると、にっこり笑って私を見ている。

「……なんのことだい?」

私が首を傾げると、雅紀はゆっくり首を振る。

「……なんでもありません。ただ、そう思っただけです。」

丁寧に箒を掛けながら私を見つめる。

雅紀は何が言いたいのだ?

私は雅紀のつぶらな瞳をじっと見つめる。

その真意を探るように。

だが、その真意を推し量ることはできず、変わりにかねてからの疑問が口をついた。

「君は……和子が好きなのか?」

思わずこぼれた言葉。

私から聞かれて、答えられるわけもないのに。

取り消そうと口を開きかけると、雅紀が真摯に答えてくれる。

「好き……。好きにはいろいろありますから……。

 ただ、僕と和子さんの場合は……恋愛感情というより……同士というのが近い……。」

「同士?」

「はい。……同士です。同じ想いを持つ……。」

「それは……志ということか?」

「広義ではそうかもしれません……。」

「君たちの志は……この家のことなのか?」

「それは……。」

雅紀が口ごもると、庭から和子が現れた。

「あなた!ここにいらしたのね!探してましたの!」

和子がにこやかに笑う。

「どうしたんだい?やけに機嫌がいいじゃないか。」

「ええ、もう天にも昇る気持ちです。」

和子がはしゃいだ様子で私の手を握る。

「できましたの。赤ちゃんが!」

瞬時には、和子が何を言ってるのかわからなかった。

「できたんです!赤ちゃんが!」

満面の笑みの和子が、私の手を和子のお腹に翳す。

「あなたの子が……。」

徐々に沸いてくる喜び。

諦めかけていた子が、和子の中に……。

「あぁ、おめでとう!」

私は和子を抱きしめた。

「ダメよ。あまり強く締め付けたら、赤ちゃんが苦しがるから……。」

和子が私の胸を押し戻す。

「ああ、すまない。」

私は和子を離してその腕を撫でる。

やっとできた。

和子の願い……。

「おめでとうございます。」

後ろから、雅紀がやってきて、和子の手を握る。

「ありがとう……。」

感慨深そうに、和子が雅紀を見上げる。

「それじゃ、大事にしないと。」

私は和子の肩を抱いて撞球場の扉を開ける。

「ええ、これ以上ないくらい、大事に大事に育てます。

 大事な赤ちゃんですもの。」

和子は、まだ何の変化もない、自分のお腹を撫でる。

私はそんな和子を見て微笑んだ。

これで、私達は本当の夫婦になれる。










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