「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑫

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その夜、私はあの薬を飲み、和子を抱いた。

私も早く子供が欲しいと思った。

子供さえできれば、公爵家での私の仕事の半分は終わる。

私達夫婦が、より夫婦になれる。

「あっ……ふぅ…んっ……。」

和子はさすが智の姉だけあって、その肌の白さは智と似ている。

触った時の感触も……きっとこれくらい滑らかなのだろう……。

私はあの口づけを思い出し、昂る体を和子に押し付けた。

「あ……ぁんっ……あ…なた……。」

縋りつく和子に何度も突き立てる。

「あ……あぁんっ……!」

声も……二人はよく似ている。

穏やかに笑う声など、どちらのものかわからないくらいだ。

きっと、智の声も……。

あの撞球場での智が思い起こされ、その想いを、和子の中で溢れさせた。

和子が、長い息を吐いて言う。

「はぁ……。今日のあなた……どうなさったの?」

「何が……?」

私も荒い息を吐きながら、和子の隣に寝そべる。

「いつもより……。」

「ん?」

私は和子の方へ首を傾ける。

「……いえ……何でもありません……。」

和子はそう言って、私の傍らに体を預け、目を瞑る。

私はそんな和子の髪を撫で、ぼんやりと天井を見上げる。

これでいいんだ……。

智が誰と何をしようと……。

私には和子がいる。

私達の間に子供ができれば、きっと智のことを思い出すこともなくなるはず……。

私もゆっくりと目を瞑った。

隣で寝ている和子の寝息が、私を穏やかな眠りへと導いてくれた。



久しぶりに庭に出てみると、バラはすっかりその姿を変え、

緑の葉だけを茂らせていた。

潤が枝を見ながら、手入れをしている。

もうだいぶ暑くなった陽ざしの中、麦わら帽を被った潤は、

捲り上げた袖から見える腕も日焼けし、太く、力強さを感じさせる。

智は潤のこんなところがよかったのだろうか?

潤に声をかけると、振り返った潤はキューピットのような笑顔を見せる。

「はい。もう花の時期は済んだので……花は全て切り捨てました。

 そうしないと、バラの木が疲れてしまって、次の花が咲かないんです。」

潤の言葉遣いが丁寧になっている。

これも智が教えたのか?

「もう字は覚えたのかい?」

「はい……。なんとか……平仮名は……。」

智のことを思い出しているのか、モジモジと顔を赤くする。

でも、字を覚えたのなら、智が教えることはもうないだろう。

「それでは、次は私がソロバンを教えてあげようか。」

「そんな……皆さんに本当によくして頂いて……若旦那様にまで……。」

潤が申し訳なさそうに首を振る。

「いいんだよ。この間、智君も言っていただろう?

 暇な者が教えるって。和子は何かと忙しいし、ソロバンは私が適任だと思うのだが。」

「いいよ。翔さんはそんなことしなくて。」

後ろから声がして振り向くと、そこに智が立っていた。

「智…君……。」

私の顔などほとんど見ず、智は潤に向かって歩いて行く。

「まだカタカナが終わっていないよ。」

「も、もう十分です……。」

「ダメ……。ちゃんと最後まで教えたいから……。」

智は潤の腕を掴んで引っ張る。

「坊ちゃん……。」

すると、大きな蜂が、智の前を横切る。

「ぅあっ……。」

驚いた智がよろめくと、その腰を、片手で潤が支える。

そのまま、蜂から守るように智を抱え込む。

「大丈夫です。蜂は何もしなければ襲ってきたりしません。

 蜂だって、命がけなんですから。」

潤の力強い腕に守られた智は、その肩からそっと顔を覗かせ、蜂の動向を見つめる。

「しばらくじっとして。」

潤に言われ、智はサッと顔を伏せる。

「大丈夫。行ってしまいましたよ。」

顔を伏せた智にそう言って優しく笑う潤。

潤の胸から顔を上げ、見つめる智。

私の胸にカッと熱いものが溢れ出す。

「坊ちゃん……怖がりなんですね。」

潤は愛おしそうに智を見つめる。

「だ、誰だって蜂は怖いだろう?」

智は潤から離れて口を尖らせる。

「それから……僕は坊ちゃんじゃなく、智だから。」

「え……でも……。」

潤が躊躇しながら口を開く。

「さ……とし…さま……。」

私の胸の中の熱いものが噴火するのに、それで十分だった。

私は智の腕を掴み、歩き出す。

「な……何を…する……翔さん……!」

智は引きずられるように私に着いてくる。

チラッと振り返ると、私達を見つめる潤と目が合う。

だが、潤になど構っていられない。

私は撞球場に入ると、地下に通じる扉を開けた。

「い、痛いってば!翔さん!」

暴れる智を力づくで扉の中に入れる。

ここなら、昼間人が来ることはほとんどない。

撞球場に行くにしても、通路を使う人はほとんどいない。

今、この家で撞球ができるのは公爵と智と私だけなのだから。

扉を閉め、その扉に智を押し付ける。

「君は……何がしたいんだ?」

私は掴んだ手にさらに力を込める。

「痛っ……。何がって……何?」

智が不敵に笑う。

「この間は私を……今度は潤か?」

智は一瞬切なそうに瞳を潤ませたが、頭を振って顔を伏せる。

「智………。」

俯く智が幼く見えて、私は思わず手の力を緩める。

それに気づいた智は、素早く私から腕を振りほどき、拳を作って私の胸を叩いた。










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