「三日月」
三日月(やま)【1~20】

三日月 ⑦

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彫りの深い端正な顔立ちに、野性味溢れる鋭い視線。

野生の虎か、あるいは鷹か。

それが私の第一印象だった。

松本と名乗るその庭師の孫は、ギラギラする視線を迷うことなく私に向けた。

隣の和子が困ったように私を見上げる。

「潤です。……若旦那様、よろしくお願ぇします。」

ペコリと頭を下げる態度は、見た目によらず真面目なようで、ホッと胸をなで下ろす。

「オレ……目付き、悪いですか?」

顔を上げた潤が、不安そうに私を見つめる。

「いや……まぁ、そうだね……。」

なんと言っていいかわからず、言葉を濁す。

「爺ちゃんに怒られるんす。もっとにこやかにしろって。」

和子も私を見て、ホッとしたように優しく笑う。

「大丈夫よ。ここで働くようになれば、

 みんな、あなたのことをわかってくれるようになるから。

 わからないことは、私でもお爺様でも、聞いてくださいね。」

「はい。ありがとうごぜぇやす。」

また潤が頭を下げる。

「でも……言葉遣いは……直して頂きます。」

え?と潤が首を傾げる。

「少しずつ、覚えてくれれば構わないから。」

和子がにっこり笑うと、潤の頬が仄かに赤くなる。

「オレ……学校、行ったことねぇから……。」

恥ずかしそうに下を向く潤の手を取って、和子が言った。

「では、読み書きも教えましょう。大丈夫。みんなが教えてくれるから。」

「は、はい。ありがとうごぜぇやす。」

嬉しそうに笑うと、潤は深々と頭を下げた。

私はその顔に驚いた。

潤の笑った顔は、虎や鷹とは縁遠く……絵画に出てくるキューピットのようだった。



食事会兼会合が長引き、帰りが遅くなった。

特に予定があったわけではなかったが、私は帰りを急いだ。

人力車を門に付け、礼を言うと玄関に入る。

玄関脇の部屋は雅紀の部屋だ。

もう寝ているのか、明かりが消えている。

私は階段を上がりかけ、足を止める。

何か……声がが聞こえた気がしたのだが、気のせいか?

1階の、奥の方から聞こえてくる。

1階に住んでいるのは、雅紀だけのはず。

使用人達の部屋は、母屋と続きになっている離れだ。

雅紀の部屋の明かりは消えているのに、どこから聞こえるのだろう?

私は声のする方へ歩いて行く。

掠れ掠れに聞こえる声は止むことなく、

その声が一人でないことはすぐにわかった。

「あ……ぁん……ゃ……ああっ……。」

「……あぁ………きれ………こう?」

「っあ……あぁ……んっ……。」

どう聞いてもこれは睦言……。

私は顔を赤くしながらも、歩みを止めることができない。

この家でそんなことができるのは……。

私は一番奥の部屋の前で立ち止まる。

もし、これが公爵なら……こんな所で聞き耳を立てるなど、大変失礼なことだ。

この家を出て行けと言われても仕方ない。

和子なら……どうして私と結婚したのだ?

……結婚できる相手ではなかったのか。

……まさか智が……。

体が弱いというから、閨(ねや)の所作ができるかどうか……。

それに、そんな相手がいるのなら、この家を継げばいい……。

これも身分違いの恋なのか?

恋という単語に、ズキッと胸が痛む。

私の初恋は……白いワンピースの少女だった。

それは、淡い淡い恋心で、恋心と呼べるほどのものでもなかったかもしれないが、

それでも、私にとっては初めての恋だった。

私は手を握り締め、その場を離れた。

誰が何をしていようと、私は目を瞑るしかないのだ。



次の日、私はあの薬を飲んで和子を抱いた。

早く子供を作りたかった。

何も考えず、和子を抱きたかった。

和子の白い肌は、あの温室での智を思い起こさせる。

白く輝く眩い肢体……。

いつになく何度も求める私に、和子が訝しんだ。

「今日は……どうなさったの?」

「……どうもしないが……。」

和子の胸に顔を埋める私を、和子が優しく抱きしめた。

「あなたは……誰を抱いているの?」

見上げる私に向かって、和子は慈愛に満ちた顔で笑った。

「あなたの思う通りに……。それが私の望みです。」

そう言うと、和子は私の頬を撫で、首筋を指先でなぞる。

私は小さく声を上げ、和子の中に入っていく。

笑う和子の顔が智に見え、激しく首を振る。

私が抱いているのは和子なのか……?

再び和子の顔を見ると、白いワンピースの少女が、私の首を抱きしめている。

ブルッと身震いして、私は激しく少女を突き上げる。

その顔は和子になり、智になり、少女になり……。

これはきっと薬のせいだ……。

そうだ、そうに違いない……。

グラッと頭が揺れて、私の体は和子の上に沈んだ。

そんな私の背中を、和子が優しく撫で続けた。










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