復活LOVE(やま)

復活LOVE ⑫

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俺らはポツポツと言葉少なに話しをする。

一緒にいるこの空気感が心地よくて、壊したくなくて。

「……勉強、無理しないでね?体壊したら、元も子もないんだから。」

「……うん。わかってる。……俺さ……。」

「うん。」

先生がカップを置いて俺を見る。

「将来……。」

「……ん?」

「まだ……具体的には決まってないけど……報道とか、メディアとか……。

 伝える仕事をしたいと思ってるんだ……。」

「伝える仕事?」

「うん。……今の日本がどうなってるのか、何が起きているのか、

 どこで困ってる人がいて、どうやったら助けられるのか……。

 考えて、伝えていく仕事。」

先生はにっこり笑って俺を見る。

「ぅん……素敵だね。翔君に合ってると思うよ。」

「……ありがと。」

俺は描きかけの先生の絵を見つめる。

印象的な大きな瞳が、じっと俺を見つめ返す。

なんとなく形になり始めた俺の将来。

先生が描いてる絵を見て思ったんだよ。

先生は自分の想いや感動を、そこに表してる。

時には衝動だったり、感性のまま筆を走らせてるんだろうけど、

何かがあるから、見る者を引き付ける。

赤裸々な、先生自身。

俺も、俺の想いや考えを恥ずかしがることなく、カッコつけることなく、

真っ直ぐに、真摯に伝えてみたいなぁって。

先生に対しては……なかなかできそうにないけど。

絵から先生に視線を移すと、先生と視線がぶつかる。

美味しそうにクッキーを齧って、クッキーの欠片を唇の端に付けて。

そんな子供っぽい先生を見て、俺がクスッと笑うと、先生もさらにクスッと笑う。

俺は紅茶を口にし、窓の外を見る。

午後の陽ざしは柔らかく、遠くに見える家々にも、

きっと幸せが転がってるんだろうなと想像させられる。

好きな人と二人だけの、大事な時間……。

例え伝えられなくても……。

ほら、こうやって言葉を交わさなくても、俺も、たぶん先生も、

居心地のいいこの時間を楽しんでる。

「何?どうしたの?」

先生が楽しそうに俺の顔を覗き込む。

「ん……別に……。」

「なんだかとっても楽しそう。」

「……楽しい……よ。」

「紅茶、染みない?」

先生が唇の端を心配そうに見つめる。

「ん……大丈夫。」

俺はそっと唇の端に触れてみる。

口を大きく開けると痛いけど、先生と一緒にいれば、痛いのだって忘れる。

んふふっと笑って、紅茶を口にする先生。

久しぶりの先生との時間は、あっという間に過ぎていき、

気付けば外はすっかり暗くなっていた。



「ああ、ごめんね。もうこんな時間だ!」

先生がすまなそうに眉を寄せて、片づけ始める。

「大丈夫。女の子じゃないんだから。」

「そうだけど、あんまり遅いと親御さんも心配するから。」

「しないしない!」

俺は大げさに首を振る。

「しかも、そんな怪我して帰るんだもん。」

俺は自分の怪我を改めてみる。

見えるとこの傷は唇と、手の甲の擦り傷。

大したことはない。

俺も手伝って片づける。

ふいに、クッキーの缶を持つ先生の手と、俺の手が重なった。

一瞬動きを止める俺達。

「せ、先生は絵の道具をしまって。こっちは俺がしまうから。」

「う、うん。」

先生が絵の道具を片づけ始める。

俺は美術室に行って、紅茶のカップを軽く洗う。

先生の飲んだカップ……。

先生の真似をしてカップを口に持っていく。

先生の唇の当たった場所。

カップはひんやりとしていて、先生の唇の感触を想像させてはくれなかった。



それからは、たまに美術準備室に行くようになった。

先生は絵を描いて、俺は窓の脇で受験勉強をする……。

そんな穏やかな日々。

ある日、俺が美術準備室に行くと、いつも俺が勉強する場所で、

両手を枕にして、先生が昼寝をしていた。

きっと、根を詰めて絵を描いていたんだろう。

「……先生?」

声を掛けても先生が起きる様子はない。

俺はゆっくり近づいて、先生の寝顔を眺める。

近くの椅子を引き寄せ、先生の突っ伏した机の前に座って、

俺も机の上に顔を乗せて先生を見る。

あの、若冲展で見上げた先生の顔が頭を過る。

長い睫毛……。

いつもはあんまりわかんないけど、目をつぶるとよくわかる。

そっと睫毛に触れてみる。

揺れる睫毛の波……。

綺麗に通った鼻筋を辿って、微かに開いた唇で目が留まる。

時々吐き出される息で、唇が微かに震える。

柔らかそうな、ツルツルの唇……。

そっと顔を近づけて、唇に唇を重ねる。

想像通り柔らかくて、スベスベで、気持ちいい……。

すると、パチッと先生の目が開いた。

不思議なものを見るように、俺を見る先生の瞳。

次の瞬間、パッと飛び起きて、びっくりした顔の先生。

「しょ、翔君?」

俺はグッと唇を噛みしめ、立ち上がると、座っている先生の前まで行く。

「ど、どうしたの?」

不安げな先生の顔が、俺の衝動に拍車をかける。

「……どうもしない……。」

「でも……なんか変……。」

見上げる先生の瞳は、さらに不安そうに揺れる。

俺は先生の手を掴んで棚に押し付けると、先生の唇にもう一度唇を押し当てる。

「んっ……!」

先生の息を飲む音。

力のはいる腕。

驚いている瞳。

しばらくそのままでいると、先生の腕から力が抜ける。

驚いて見開かれた瞳は、徐々に困ったような色を覗かせる。

触れ合うだけの唇。

でも、そこは熱くて、こみ上げるものも大きくて。

ぎゅっと目をつぶり、唇を離す寸前、一言つぶやく。

「先生が……好きだ……。」

怖くて、先生の顔は見れなかった。

俺は、先生に背を向け走り出した。

準備室から逃げ出し、美術室を通り抜ける。

何があったのかと、びっくりしている美術部員の顔が目の端を横切る。

言ってはいけないこと、してはいけないことをしてしまった……。

それ以上何も考えられず、ただひたすら走ることしかできなかった。










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