手解きはディナーの後で……(やま)

手解きはディナーの後で…… for零治様 ④-下

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「影山……。」

動けない鮫島社長に向かって、影山が近づいて行く。

「ちょ、ちょっと待て、影山!」

影山が歩を緩める様子はない。

「影山!」

「どなたに入れ知恵されたかわかりませんが……。」

影山は一瞬伏せた目を見開いて、鮫島社長を直視する。

「私には通用いたしません。」

鮫島社長の前に立つと、おもむろにシャツのボタンに手を掛ける。

「影山っ!ちょ、ちょっと待て。ちょ、ちょっ!」

ニヤリと笑った影山は手早くボタンを外しにかかる。

「待て!待てと言っている!!」

鮫島社長は影山の手を掴むと、見上げるようにじっと睨みつける。

「今日の手解きは……シャワーの後になさいますか?

 それとも、バスルームでご一緒に……ご指南いたしましょうか?」

影山のニヤリ笑いに慌てた鮫島社長。

影山の手を振り払うと、シャツを直して外されたボタンを留め始める。

「い、いい。このまま始めてくれ!」

影山は姿勢を正し、軽く会釈すると、鮫島社長の背に手を掛け、ソファーへ誘う。

「零治様、そのどなたかの手解きで、上手くいったのでございますか?」

鮫島社長の顔が曇る。

「い……いかなかった……。」

鮫島社長はソファーに腰を下ろすと、小さな子供のように体を縮めて膝を抱える。

「零治様……。」

「でもそれは……俺のせいだ……。」

影山は鮫島社長の前に跪(ひざまず)く。

「俺が……怖かったから……。」

鮫島社長は抱えた膝の間に顔を埋める。

「怖かった?」

「……そうだ。……嫌われるのが……怖かった……。」

か細い声で答えると、体をさらに小さくする。

影山はにっこり笑って隣に腰かけ、鮫島社長の背中に手を掛ける。

「何も怖がる必要などございません。

 零治様ほど可愛らしい方に、私は会ったことがございません。」

影山の手が鮫島社長の背を撫でる。

「零治様ほど素直で真っ直ぐな方、嫌いになる女性などおりません。」

影山の手は、さらに鮫島社長のうなじを撫でる。

「零治様ほど、開発意欲をそそる方も……。」

鮫島社長が少し顔を上げる。

「開発……?」

影山はにっこり笑って、鮫島社長の頬に手を添える。

「素直になればよろしいのです。素直に……好き……と。」

「素…直……?」

鮫島社長の目が影山を見つめる。

「左様でございます。……好きと。」

「……好き……。」

影山は、頬に当てた手をゆっくりと動かし、指先で唇を撫でる。

「練習でございます。私の目をじっと見て……。」

鮫島社長は言われた通り、影山の大きな瞳をじっと見つめる。

黒い瞳に、見上げる自分の姿が映る。

「気持ちを込めて……好き……と。」

鮫島社長は影山を見つめながら、唇を動かす。

「……す……。」

影山は優しい瞳で鮫島社長を見つめ続ける。

鮫島社長は、影山の大きな瞳に吸い寄せられるように顔を近づけていく。

「す……す…………。」

「自分の気持ちを素直におっしゃればよろしいのでございます。」

影山の手が、鮫島社長の首筋を撫で、肩をゆっくりと押す。

鮫島社長の膝を抱えていた腕が解かれ、ゆっくりとソファーの背もたれに沈んでいく。

「さぁ……素直に……。」

影山の唇が鮫島社長の唇に触れる。

「素直……。」

鮫島社長はその影山の唇をじっと見つめ、もう一度触れるのを待つ。

「素直に……。」

影山の唇が、鮫島社長の唇のほんの手前、触れるか触れないかの位置で止まる。

「自分の気持ちを……。」

影山の動かない唇をじっと見つめる鮫島社長。

「…………。」

じっと動かない影山。

「…………。」

「し……しろよ。」

焦れた鮫島社長が小さな声で言う。

「何を……?」

影山も、低い声で問い返す。

「だから……。」

「だから?」

「…………キ……。」

「キ?」

「…………キス……。」

「キス?」

「そ、そうだ!キスしろよ!」

鮫島社長が大声を出すと、影山はクスリと笑って鮫島社長の唇に唇を重ねる。

重なったと同時に絡まり合う舌は、何度も顔の角度を変え、深く深く押し入っていく。

影山の手は鮫島社長の頬を包み、鮫島社長の手は影山の背に回る。

粘り気の強い唾液の音と、荒い息遣いが、二人の鼓膜を刺激する。

「ん……ぁんっ……ぁあんっ。」

鮫島社長は、漏れる吐息に息を飲む。

自分から出たとは思えない高い声。

慌てて影山の肩を押し、唇を離す。

戸惑っている鮫島社長の顔を見て、影山がニヤリと笑う。

「それが……素直な声でございます。」

鮫島社長はグッと唇を噛みしめ、影山を見つめる。

影山はポケットからハンカチを取り出すと、鮫島社長の口の周りの唾液を拭う。

カァッと顔が赤くなる鮫島社長。

「素直に自分の気持ちを伝える……それは本当に難しいことでございます。

 例え練習だと言われても、そう簡単にできることではございません。

 ですが、心を開放し、無心になればおのずと素直な声が漏れる。

 大切なのは、心の声だと言うことを……お忘れなきよう。」

影山は立ち上がると軽く会釈し、コーヒーカップを手にキッチンに消えていく。

その後ろ姿を見つめる鮫島社長。

背筋の伸びた、スッとした後ろ姿を見つめながら、ポツリとつぶやく。

「…………す…き……。」

ハッとして頭を振り、影山から視線を逸らすと、中庭を眺めた。










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