手解きはディナーの後で……(やま)

手解きはディナーの後で…… for零治様 ③-下

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ディナーが終わり、鮫島社長は中庭を見つめる。

障害を乗り越える……。

はたして、そんなことが俺にできるのか?

食事中もそのことばかりが気になってしかたない。

上司が部下を好きになるなんて、気持ち悪いと言われた時も、

なぜ、それほどショックを受けているのか自分でもわからなかった。

が、一瞬頭を過った影山の顔。

それも、ここのところの影山の恋愛指南?のせいだろうと気楽に考えていたのだが……。

鮫島社長はチラッと影山を見る。

影山はテーブルの上の食事を丁寧に片づけ、コーヒーの用意をしてやってくる。

予期せず影山と目が合って、視線を逸らす鮫島社長。

それに首を傾げながらも、いつもと変わることなくローテーブルにコーヒーカップを置く。

「零治様、食後のコーヒーでございます。」

「うむ。」

鮫島社長は振り返らず答える。

コーヒーを飲んだら、またあのレッスンが始まるはず……。

あのキスをまた味わえる……。

そう思うと、思わず顔が赤くなる。

気持ち悪いと言われて落ち込んでいたはずの心が、ボッと火が付いたように熱くなる。

窓に映った顔を、影山が見ているとも知らないで、

ポーカーフェイスを作り、ソファーへと歩いて行く鮫島社長。

影山は、クスリと笑ってソファーの横に立つ。

鮫島社長は、ゆったりとソファーに座り、コーヒーカップを持ち上げる。

「影山。」

「はい。何でございましょう?」

鮫島社長はゆっくりとコーヒーを啜る。

「障害……についてだが……。」

「ああ、そうでございましたね……。」

影山は手にしていたコーヒーポットを置くと、鮫島社長の前にかしずく。

「まずは、気持ちを伝えることが大事でございます。」

「それはわかっている……わかっていても……むずい。」

鮫島社長は隣に置いてあるクッションに体を預ける。

斜めにずらされた体は、無防備で隙だらけだ。

影山は、クックックと声を上げて笑う。

「気持ちがあれば、言ってはいけないと思っていても言ってしまうものでございます。」

影山はゆっくりと鮫島社長の顎に指を掛ける。

「キスは……気持ちよくはございませんでしたか?」

影山に顎を上げられ、下目遣いで見つめる鮫島社長。

「わ、悪くはなかった。」

口を尖らせ、見つめ続ける。

「では……昨日のキスは?」

昨日のキスを思い起こし、顔に火が付く。

「昨日のキスの方がお好みのようでございますね?」

影山がニヤリと笑う。

「う、うるさい!俺は一言も……。」

「言葉で言わなくても顔が全てを物語っております。」

影山はそっと唇を近づけていく。

影山の大きな瞳に鮫島社長の顔が映り、鮫島社長がハッとする。

なんだ、この、キスを待っているような顔は!

「ま、待て。」

「待って……よいのでございますか?」

「い、いや、よくない……あ、いいや、待て。」

「零治様?」

パニクる頭で一生懸命考える鮫島社長。

いいのか?

あんな顔して……。

どんどん頬が上気して、余計に考えがまとまらない。

「まずは第一の障害でございますね。

 恥ずかしさ……。

 これは一度克服すれば、その後は全く気にならなくなる代物。

 最初の一回が肝心なのでございますが……。

 もう、これは克服されているかと思っておりました。」

影山の唇が鮫島社長の耳に近づいて行く。

自分の鼓動が早くなるのを感じ、鮫島社長は動けない。

「あんなキスをしておいて……今さら恥ずかしいなどと……。

 零治様は可愛いらしくていらっしゃる。」

耳たぶに唇が触れるか触れないかで話す影山の声は、低く、甘い。

鮫島社長はブルッと身震いすると、すかさず耳を両手で隠す。

「は、恥ずかしくなんかないわ!」

思わず叫ぶ鮫島社長。

「本当に?」

「ほ、本当だとも。」

「では……。」

影山はにこりと笑って鮫島社長を見上げる。

「今日は零治様にリードしてもらいましょうか……。」

「り……ード?」

「はい。零治様から……お願いします。」

影山はそっと目を閉じ、鮫島社長の唇を待つ。

「俺から……?」

鮫島社長は顎から離れた手を追おうとして、自分の手を握り締める。

キスを待つ影山の唇はぷっくりと膨れていて、しっとりしているように見える。

ドキドキと騒ぎ出す心臓を押さえて、おずおずと唇を近づけていく。

待っている影山の唇の端がわずかに上がる。

それを見て、カァーッとなった鮫島社長は、ソファーの上に突っ伏した。

「で、できるか!」

影山はパチリと目を見開くと、クスリと笑う。

「零治様、上司と部下以前の問題でございます。」

「わ、わかってる!」

「相手の方のリードを待つおつもりでございますか?」

「…………。」

「恥ずかしくないとおっしゃったのは零治様でございます。」

「う、うるさいっ!」

鮫島社長は大きな声で怒鳴ると、影山の首を抱え込み、ソファーに押し付ける。

ブチュッと唇を押し当て、ぎゅっと目をつぶる。

そのまま唇を合わせ数秒。

影山はクスッと笑って、わずかに顔の角度を変える。

影山の動きに気づいた鮫島社長。

そろそろと舌を差し込み、影山の舌を探す。

舌が絡まると、徐々に大胆になる鮫島社長。

昨日の影山のキスに倣(なら)い、濃厚なキスを繰り返す。

影山の口の中は鮫島社長の唾液で充満し、それをゴクッと飲み込むと、低い声で囁く。

「零治様……気持ちを伝えませんと……。」

今度は鮫島社長がゴクリと唾を飲む。

影山の唇が、鮫島社長の頬に移る。

ニヤリと笑った顔は妖艶で魅惑的。

誘う影山の顔から目を逸らし、鮫島社長の唇が動く。

「すっ……す……。」

鮫島社長の頬をなぞりながら、待つ影山。

「す……す…き……ぅわぁ~っ!ダメだ~!」

影山の体から体を離し、逆側のソファーに突っ伏す。

「零治様……。」

影山はゆっくりと起き上がり、鮫島社長の背中を撫でる。

「これを乗り越えないことには、先に進むことはできません。

 練習でこれでは……。」

練習という言葉に、鮫島社長がドキリとする。

「う、うるさい!今日は終わりだ!」

影山は肩を竦め、立ち上がる。

「かしこまりました。今日はここまでということで……。

 ですが、零治様。障害は乗り越えてこそでございます。

 甘く満ち足りた世界……それは壁の向こうにあるということを、お忘れなきよう。」

鮫島社長は小さな声でボソッと言う。

「もっと……甘い世界があるっていうのか……。」

聞き取れなかったのか、影山が鮫島社長に近づく。

「零治様?」

「うるさいっ。もういい!」

鮫島社長はソファーに顔を押し付け、影山を見もしない。

影山は溜め息をついて姿勢を正す。

「では、ディナーの片づけをしてまいります。」

影山が立ち去ると、鮫島社長はそっと顔を上げる。

「お前と……練習になんかなるか。」

そのまま中庭に目を向ける。

「障害を乗り越える……。」

チラッとキッチンの方を見て、また視線を中庭に移す。

「……むずい。」

影山が、キッチンの奥でクスリと笑った。










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