TRIP 腐的妄想

某5人組アイドルの腐的(BL)妄想小説です。成人女性限定でお願いします。

時計じかけのアンブレラ  12/21 上

時計じかけのアンブレラ



3日後、空は、すっきりとはいかないまでも、ようやく晴れた。

私はサトシの椅子を助手席に固定し、そこにサトシを座らせる。

通りすがりの人が見たら、不思議な光景だろうが、

今の私にとっては、それは幸せの図だ。

サトシは……3日後には動かなくなっているかもしれない。

少なくとも、一度は電源を落とし、内部をチェックする必要がある。

チェックの仕方によっては、ハードのデータは

クリーニングされてしまうかもしれない……。

記憶のなくなったサトシは、ただのロボットに戻るのか?

記憶がなくなっても、二人で過ごした日々がなくなっても、

サトシはサトシのままなのだろうか……。

私にはわからない……。



ドライブは順調にスタートした。

助手席のサトシは楽しそうに窓の外を眺める。

サトシが外を楽しめるように、本を積み重ね、椅子も高めに固定した。

「ねぇ、ショウ君、あれは何?」

「ああ、高速だよ。あれに乗って、海まで行くんだ。」

「ふぅん。あれに乗るの?車は降りるの?」

「ははは。車ごとだよ。」

私はハンドルを切り、高速の坂を上がって行く。

「うわぁっ!高くなる~!」

「高速は、あんまり景色が楽しめないけど、こっちの方が早いからね。」

「んふふ。そうなんだ。」

「たいくつだったら少し寝てもいいんだよ。

 海まではまだ少しかかるから。」

「ううん。ショウ君と一緒だもん。全然たいくつじゃないよ。」

サトシが私を見上げ、笑う。

ロボットに表情はない。

でも、確かに私に向かって微笑んだような気がした。

いや……私がそう思いたいだけなのだ。

わかっている。

わかって……。

車中、サトシはずっとはしゃいでいた。

いつになくおしゃべりで、いつになく笑い声を立てる。

あの、アイドルの初期の歌を口ずさみ、手と足を動かして、

座ったままで踊ったりもした。

私もそんなサトシを見て笑った。

サトシの仕草はどれも可愛く、私の心を掻き乱す。

私はロボットクリエイターだ。

ロボットを作るのが仕事だ。

なのに……。

ロボットに心奪われてどうする?



海に付き、サトシを抱いて車から降りる。

サトシのボディは高度なファイセラミックスでできている。

熱に強く、強固で、にもかかわらず、プラスチックより軽い。

表面に施した樹脂材により、衝撃にも強い。

子供や老人の相手を想定して作られているので、簡単に傷つくボディにはできない。

もちろん、樹脂の塗り替え等、メンテナンスは必要だが、

おかげで、ボディに関しては半永久的に使える物になっている。

だから、潮風にも強い。

ああ、間接部分だけはどうしても隙間ができてしまうが、

サトシは服を着ているので、その心配も半減する。

「サトシ……見てごらん。これが海だよ。」

私は胸に抱いたサトシに海を見せる。

「うわぁ~っ!」

サトシが声を上げる。

見渡す限りの海。

浜に打ち寄せる白い波。

空との境界線付近の濃い青。

それが、湾曲するところまで見える。

「すごいね!海って大きいね!青いね!」

「ふふふ、そうだろ。サトシの服と同じ青だ。」

サトシはシャツの裾を引っ張って見る。

「うん。海の青!あお~っ!」

私は波際に近づき、数メートルの所にレジャーシートを広げる。

砂の上はでこぼこしていて、サトシが歩けば転んでしまう。

でも、きっとサトシは歩きたいだろう、そう思って用意した。

レジャーシートの上にサトシを立たせると、サトシは恐る恐る一歩を踏み出す。

「なんか……変?」

首を傾げて足元を見つめる。

「砂は棚や床と違って真っすぐではないからね。

 気を付けて歩くんだよ。」

「う、うん。」

そっともう一歩を踏み出すと、レジャーシートの下の砂が動く。

「うわっ。」

「しばらくいれば均(なら)される。」

「そうなの?」

サトシが私を見上げる。

「そうだよ。おいで。」

サトシを呼ぶと、サトシは足元も見ずに私の方に駆け寄って来る。

2歩踏み出した所で、案の定、転んだ。

頭は私の足に当たり、体が斜めに固まる。

「サトシ……大丈夫か?」

慌ててサトシを抱きあげると、サトシはおでこを撫でて、恥ずかしそうにする。

「ははは。転んじゃった。注意されたばっかりなのに。」

「呼んだ私が悪かったね。ゆっくりでいいんだよ。」

サトシは私を見上げ、私の腕に腕をかける。

「でも……時間があんまりないんでしょ?」

「サトシ……どうして……?」

サトシは顏を下げ、私の腕を撫でる。

「おいら……寝る時、パソコンに繋がってる……。

 そこから……教えてもらった。」

「サトシ……。」

サトシがそこまでできるとは思わなかった。

そこまで成長しているとは……。










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時計じかけのアンブレラ  12/17

時計じかけのアンブレラ


今日は、マツモト君にお願いした2週間後だ。

だが、どうもサトシの数値が乱れる。

サトシが充電する椅子はパソコンと繋がっている。

サトシは試作品なので、記憶容量や学習容量をデータとして管理しているのだが、

減ることがあるのだ。

増え続けるはずのものが……。

まさか、自分で何か削除しているのか?

いや、あり得ない。

そんなプログラミングはしていない。

エラーか?

少し調べたいことがあるので、もう一週間、モニタリングを延期して欲しいと

マツモト君にお願いした。

「よくあることです。」

と、マツモト君は二つ返事で了解してくれる。

携帯を置き、ソファーに座って考える。

何が減っているのだろう……。

サトシのハードを取り出せばわかるだろうが、なぜかそれをしたくない自分がいる。

なぜだろう……。

私の中の何かが引っかかる。

「ショウ君、どうしたの?」

絵を描いていたサトシが、私を見上げて首を傾げる。

「ん?」

「ここに皺が寄って……。」

サトシが自分の目と目の間を指で差す。

「難しい顔してる。」

難しい顔……。

サトシにはもうわかるのだ。

私の感情の機微を、私の表情から読み取って、それを和らげようとする。

私はサトシを抱きあげ、抱きしめる。

「ショウ君……?」

私の胸に抱かれたサトシが、チュッと私の腕にキスをする。

「何があっても、おいらはショウ君が大好きだよ。」

ああ、そうだね。

そう、プログラミングしたよ。

何があっても私を好きになるように。

「だから、そんな顔すると……おいらも悲しくなる。」

悲しい?

私は悲しそうな顔をしているのか?

「悲しくはないよ……。」

私はサトシの体を撫でる。

「悲しそうだよ……。」

サトシが私を見つめ、その大きな目で私を捉える。

「悲しいわけではない……。」

ただ、ひっかかるだけだ。

私の生活は……サトシが来てから変わった。

日常の会話が増え、感情の起伏が生まれ、サトシとの会話を楽しみ……。

人間ではないロボットのサトシ。

そのサトシに……感情移入しているのか?

まさか!

サトシはロボットだ。

本物のオオノ先輩も、もうすぐ帰国する。

サトシは先輩ではない。

そんなことはわかっている。

話し方、声をどんなに似せても、サトシは先輩ではない。

作り物だ。

先輩に似せたから、こんな気持ちが沸き起こるのか。

ひっかかるのはそこか……。

私の中に、先輩とは違う感情が、サトシに対して芽生えている。

そういうことなのか。

私はサトシを……ロボットだと……思いたくないのだ。

作り物なのに。

自分で作ったくせに!

もうすでに手放したくないとさえ思っている。

ただのプロトタイプではなくなっている……。

私はサトシを目の前迄抱きあげる。

「サトシ……。」

「ん~?」

サトシがゆっくり首を傾げる。

私はそのサトシにそっと唇を寄せる。

小さなサトシの目の下に唇を当てると、サトシがチュッと言う。

「ショウ君からキスしてくれた~。これはどっち?大好き?可愛い?」

「どっちもだよ。可愛くて大好きだ。」

「んふふ。嬉し~。」

オオノ先輩と同じ話し方。

同じ声。

でも、全く別のただのロボット。

モニタリングが始まれば、サトシを起動する必要がなくなる。

「海……見に行こうか?」

「海……?青い……?」

「そうだ。青い海だ。約束したろ?」

「うん。でも……。」

サトシが窓の方を向く。

「今日は雨だよ。青い空も見えないのに、海は見えるの?」

「見えるよ……。でも、すっきり晴れた日の方がいいね。

 次はいつが晴れ?」

「ん~っと、明日も雨で……3日後まで曇りみたい。」

サトシは口に指を当て、記憶の中の天気予報を思い出す。

「じゃ、4日後にしよう。二人でドライブだ。」

「ドライブ?」

「そうだ。車で海まで行こう。車なら、サトシも自由に外が見れる。

 疲れたら眠れるように椅子も持って。」

「うん!」

サトシが私の首に抱き着き、チュッと言う。

「ショウ君、大好き!大好き!大好き!」

「サトシ……。」

私もサトシを首筋で抱きしめる。

オオノ先輩に似せた、ただのロボットにキスなんて教えて……。

私は本当にバカだ。

バカでバカでしょうがない……。

サトシを……手放せなくなりそうで怖かった。

いや、もうすでに手放せなくなっているのかもしれない……。

『12月17日・雨 サトシとドライブの約束をする』

嬉しそうに青い色鉛筆を持つサトシと、10枚目の私の絵を添付した。

10枚の私の絵は、寝室の壁に貼ってある。










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時計じかけのアンブレラ  12/14

時計じかけのアンブレラ


朝になると、サトシはいつもと変わりなく、私を起こしてくれる。

「ショウ君!朝だよ!起きる時間だよ~!」

サトシの変わらない声の調子にホッとした。

寝ている間に行われるTPU(機械学習)が上手く作動したようだ。

一度、サトシを開いて調べてみないといけないと思っていたから安心する。

サトシを開けば、サトシの今までの記憶に傷をつける可能性もある。

それはできれば避けたい。

せっかく今集めているデータが無駄になる。

サトシのプログラミングはマスター絶対で構成されている。

何があろうと、マスターに背を向けることはないはずだ。

マスターと、コミュニケーションを取るだけのロボットなのだから、それが絶対条件だ。

サトシは学習する。

しかし、それで感情が生まれるわけではない。

私の感情を覚え、理解することはあっても、サトシ自体に感情はない。

それは、AIが進化を遂げる現在であっても、まだ手の届かない領域だ。

だから、サトシが背を向けた時の私の感情は、

恐らく、サトシの中でエラーが起こったことへの心配……に違いない。

一般的なユーザーならともかく、私はサトシの生みの親だ。

プログラミングをしたのも私だ。

その私が、サトシに感情を感じることなどあり得ない。

私がサトシを見ながら、ベッドでそんなことを考え込んでいると、

サトシが窓際でウロチョロし始める。

「ショウ君!ショウ君!」

仕方なくベッドから立ち上がり、サトシの方へ歩いて行く。

サトシは私に向かって両手を上げる。

「ショウ君!」

「どうした?朝からそんなに名前を呼んで。」

私は両手でサトシを抱きあげる。

「ん?大好きのキスがしたい!」

サトシは私がキスされることを喜んでいると学習したようだ。

もちろん、悪い気はしないが……。

私はサトシを顔の前に持って行く。

「今日はどこにしてくれるんだい?また目がいいのかな?」

「ううん。今日は……頬にする!」

そう言って、サトシはすかさず私の頬に顔をくっつける。

チュッと声に出して言い、顔を離すと、恥ずかしそうに顔を伏せる。

「自分でしておいて、恥ずかしそうにするのか?サトシは?」

私が笑うと、サトシはサラッと私の手を撫でる。

「恥ずかしい……?よくわかんないけど、もっとキスしたいと思ったから……。

 でも、それはショウ君、イヤでしょ?

 ショウ君はしつこいの好きじゃないもんね。」

「そんなことはないよ。サトシは……、いや、今は止めておこうか。」

私はサトシを抱いたまま、リビングに移動する。

「ショウ君!ヨーグルト!」

「オリーブオイルをかけるんだろ?」

「そう!」

サトシがやたら明るいのが気になったが、

コミュニケーションロボットは基本明るく作られている。

暗いコミュニケーションを……望む人は少ない。



今日はサトシに絵を描かせてみた。

見たものを見たままに描くことはできるはずだ。

サトシに鉛筆を渡すと、首を傾げながら、サラサラと描いていく。

あっという間に紙に白黒の私が浮かび上がった。

「さすが……上手いな。もう少しヘタな方が愛着が沸くか……。」

「ショウ君、これ、色はつけないの?」

「色?」

「うん、青!」

そうだった。サトシに色の概念を入れるのを忘れていた。

視覚はカラーで見えているはずだから、教えれば覚えるはずだ。

「色には青以外もあるんだよ。」

「青……以外?」

「そうだ。例えば……。」

私は部屋中を見渡す。

残念ながら、私の家はモノトーンの物が多い。

花など飾ることもないから、明るい色がほとんどない。

「私の髪は黒。」

「黒……。」

「唇は赤。」

「赤……。」

それ以上、教えることができなくて言葉に詰まる。

しかたない。

「サトシ、散歩に出ようか?」

「散歩?」

「そうだよ。」

私はサトシを抱きあげ、またポケットにしまう。

家を出て、街中を歩くと、サトシがポケットから顔を出す。

「どこへ行くの?」

「文房具屋と……。」

「文房具屋?」

私は通りの少し先にある文房具屋へ入って行く。

その店で、36色入りの色鉛筆を買う。

サトシは興味深々でポケットから私の買い物を覗いている。

その姿が可愛くて、思わず頬が緩む。

「誰かに贈り物ですか?」

「ええ、まぁ。」

チラッとポケットのサトシを見る。

「じゃ、リボンを掛けましょうか。」

店のおじさんが、綺麗な赤いリボンをかけてくれる。

それを紙袋に入れ、店を出ると、サトシが私に話しかける。

「もう、話してもいい?」

「いいよ。」

サトシは店の中では大人しくしていることを、もうすでに覚えている。

「それ、プレゼント?」

「そうだよ。」

「……おいらに?」

私はサトシを見つめ、ポケットに手を当て、親指でサトシの頭を撫でる。

「そうだよ。」

サトシは数秒、動かず、しゃべらず……。

その後、スッとポケットの中に隠れてしまった。

「どうした?嬉しくないのか?」

サトシはポケットから出ずに答える。

「嬉しいよ……。でも、おいらは何もあげられない。」

「そんなことはないよ。これは今朝のキスのお礼だよ」

「キスの?」

サトシがそっと顔を出す。

「そうだ。昨日はご機嫌斜めみたいだったから、心配したんだが、

 今朝は元気になってくれて、さらにキスまでしてくれたから……そのお礼だ。」

「ショウ君……。」

「それで足りないなら、この色鉛筆で絵を描いて欲しい。

 それで十分だよ。」

サトシが私を見上げる。

さて、私の言葉を理解しているかどうか……。

「わかった!何枚だって描くよ!あの部屋をショウ君でいっぱいにしてあげる!」

サトシが、ポケットから身を乗り出してそう言う。

すると、歩いている私のポケットから落ちそうになって……。

すかさず手でサトシを受け止め、ポケットに戻す。

「危ないから、ちゃんと中に入ってて。」

怒られたと思ったサトシがシュンと小さくなる。

「怒ってるんじゃないんだよ。心配してるんだ。」

「心配?」

「落ちてしまわないかと心配したんだよ。」

サトシは少し顔を上げ、ポケットの中に潜り込んだ。

帰りがけ、一人暮らしを始めてから初めて花を買った。

『12月14日・曇り後ち晴れ サトシが絵を描く』

花瓶に入れた花と色鉛筆、サトシとサトシの描いた私の絵の写真をファイルに入れる。

私の絵は綺麗に彩色された、サトシからのプレゼントだ。










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時計じかけのアンブレラ  12/10

時計じかけのアンブレラ



サトシがオリーブオイルを欲しがった理由がすぐにわかった。

偶然ついていたテレビで、体に良いと言っていたらしい。

サトシはそれをヨーグルトに掛けて俺に食べさせようとする。

「ね?ハチミツもかけて……体にいいんだって。

 オリーブオイルって油でしょ?

 機械に油差すのと一緒~?

 おいらもこれ使ったら、動きが良くなる?」

サトシがヨーグルトの周りで騒ぎ立てる。

言われた通りにハチミツとオリーブオイルを掛けて食べる。

「うん……悪くない。美味しいよ。

 でも、サトシにこれは使えないな。こんなの使わなくても、

 サトシには私がいるからね?油なんか差す必要はない。」

「でも、もっと滑らかに動きたいよ。ショウ君みたいに。」

「今のままで十分可愛いよ。」

「おいらはもっと動きたい。」

サトシが頬を膨らましたような気がして、クスッと笑う。

「これ以上動かれたら、私がついていけないよ?」

「大丈夫。」

サトシがニコッと笑って私を見上げる。

「おいらがついてくから!」

テーブルの上で、自信満々にそう言うサトシが可愛くて、

私はチュッとサトシの頭にキスをする。

「……何?これ?」

サトシは頭に手を当て、不思議そうに首を傾げる。

「キスだよ。」

「キス?」

「コミュニケーションの一つ。可愛いなぁと思ったり、大好きだなぁと思う時にするんだ。」

「今は……どっち?」

サトシがじっと私を見つめる。

「両方だよ。可愛くて、大好きだと思った。」

そう言って笑ってあげると、サトシも嬉しそうにする。

「おいらもする!」

サトシが私に近づき、ありったけ首を伸ばす。

「いいよ、いいよ。まだヨーグルト食べ終わってないよ?」

「でも、ショウ君もしたじゃん!おいらもする!」

サトシが私の手を握り、バタバタする。

「しかたないなぁ。」

私はサトシに握られた手でサトシを掴み、顔の前まで持って行く。

「もっと上!」

サトシが怒ったように言う。

「上?」

「うん。頭にチュッ!」

「あはははは。頭じゃなくていいんだよ。キスはどこにしてもいい。」

「どこでもいいの?」

「そうだよ。どこにしたい?」

「ん~。」

サトシは考えるように首を傾げ、唇に指を当てる。

「じゃ、ショウ君の目にしたい。」

「目?」

「うん。おいらを見るショウ君の目が好きだから!」

「サトシ……。」

サトシの目に私はどんな風に映っているのだろう。

改良する時に、写真機能も搭載するか……。

「いい?ショウ君!」

「いいけど、眼球にキスはできないよ?瞼になるけど、いいかい?」

「瞼……それでもいい!」

私はサトシを目の前で掲げ、じっと見つめる。

サトシの顔がゆっくり近づいて……。

そっと目を閉じた。

冷たいセラミックの感触がして、チュッと小さな声がした。

顔から離して、目を開けると、サトシが嬉しそうに私を見上げる。

「大好きのキスだよ!ショウ君!」

私はもう一度サトシの頭にキスをする。

大好き……。

久しぶりに聞いた言葉。

私はサトシから手を離し、スプーンを手にする。

「どうしたの?ショウ君、変な顔してるよ?」

正直、戸惑っていた。

思わずキスを返した自分に。

言葉の威力は大きい。

やはり、コミュニケーションロボットは時代が必要としているのだろう。

この核家族化、個人化していく世の中で、それでも人はコミュニケーションを求める。

私も求めていたのだろうか。

ヨーグルトを食べ終え、サトシと一緒に音楽を聴いていると、携帯が鳴る。

タップしてみると、懐かしい名前が点灯している。

私は急いで電話に出る。

「もしもし。」

「あ~、ショウ君?」

懐かしい声。

懐かしいしゃべり方。

「お久しぶりです。オオノさん。」

「んふふ。本当に久しぶりになっちゃった。」

この笑い方も……懐かしい。

「どうしたんですか?突然。もう5年ぶり?」

「ショウ君、どうしてるかなぁと思って。」

「ははは。どうもしてませんよ。相変わらず、仕事ばっかりしてます。」

「知らない内に結婚してたりとかしない?」

「してません。そんな時間も余裕もありません。」

「ぅふふ。そうなんだぁ。……いやね、もう少ししたら帰国できそうなんだ。

 だから、帰ったら会いたいなぁと思って。」

「本当ですか!?」

「うん。もう、おいらと連絡とってくれる人も少なくなっちゃったし、

 ショウ君が番号変えてなくてよかった!」

「いつ頃ですか?」

「12月の終わりくらいかな?年末年始は日本で過ごせそうだよ。」

「じゃ、近くなったら連絡ください。私はいつでもお付き合いしますから。」

「んふふ。ありがと。」

電話が切れても、しばらく茫然と携帯を見つめていた。

「どうしたの?」

サトシが首を傾げる。

「ああ、懐かしい人から電話があってね……。」

サトシが不思議そうに私を見つめる。

「どうしたんだい?変な顔をして。」

「なんか……ショウ君がいつもと違うから。」

「違う?」

「うん……頬が赤くて、とっても嬉しそうに見える。」

「ああ、そうだね、嬉しいよ。懐かしい先輩から連絡があってね……。」

サトシ・オオノ。

人間支援工学分野のエキスパート。

私の憧れの先輩で……大好きだった、……今でも大好きな……人。

「今度、会えるんだ。」

私がサトシの背中を撫でようとすると、サトシが私の手からスルッと逃げる。

「サトシ……?」

「なんか……ショウ君のその顔、好きくない!」

サトシが私に背を向けた。

記憶する中で……、これは初めての行動だ。

『12月10日・雨 サトシがキスを覚え、私に初めて背を向けた』

サトシの寂しげな後ろ姿と、オリーブオイルを掛けたヨーグルトの写真を添付した。










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時計じかけのアンブレラ  12/7

時計じかけのアンブレラ



それからというもの、サトシは何かとプレゼント!と言うようになった。

「ショウ君にこのタオル、プレゼント!」

「それは私のタオルだろ?」

「そうだけど、おいらからのプレゼント!」

何かを私に渡す時は決まってそう言う。

それはそれで可愛いのだが、プレゼントの本来の意味とは違うので、

サトシが12回目にプレゼントだと言って歯ブラシを渡してくれた時に注意した。

「サトシ、プレゼントって言うのは、自分の物を相手にあげる時に言うんだよ。」

「自分の物?」

「そうだよ。だから、ただ渡すだけではプレゼントとは言わない。」

「……ふぅん。おいら、なんにも持ってない。」

サトシは自分の周りを見回す。

「いいんだよ。サトシはそこにいるだけで。

 一緒に話をしてくれるだけで、私は嬉しいんだから。」

「でも……プレゼントしたい。」

サトシが私を見上げる。

「そう言ってくれるのは嬉しいんだが……。」

私はサトシを両手で持ち上げる。

この可愛いロボットは、私の事しか考えていない。

そうプログラミングされているのはわかっていても、

他者からの好意を目の当たりにすれば嬉しいものだ。

それをどう説明すればいいのだろう。

私が考えあぐねていると、サトシの手が、私の手に触れる。

ピリッと痺れるような感覚が走る。

「痛っ。」

ビクッと片手を離すと、サトシが首を少し傾ける。

「おいら、ショウ君に電気をあげた~。これならあげられる!

 でも……ショウ君、痛いの?」

「サ、サトシ!」

気持ちは嬉しいが……それをもらうのは……。

私が苦笑いすると、サトシがきょとんと首を傾げた。



電話が鳴った。

今回のコミュニケーションロボットを依頼して来たD社のマツモト君だ。

「どうですか?順調に進んでますか?」

「ああ、順調だ。まだ試作段階だが、これが成功したら、

 何体かモニタリングしてみようと思っている。」

「そうですね。不具合も見なくちゃいけませんし……。

 いつ頃になりそうですか?」

「ん~、……後2週間は様子を見て改良を加えたい。」

「わかりました。そのように手配しておきます。」

「よろしく頼む。」

電話はすんなり切れる。

マツモト君は勘もいいし、気の付く男だ。

2週間後には適当なモニターを調整して、最短ルートで販売できるようになるはずだ。

それまでに、サトシの観察はほぼ終わる。

ロボット自体の寿命はバッテリーを変えれば半永久的に持つ。

もちろん、メンテナンス次第だが。

けれど、そんなに使う人間がいるとは思えない。

おもちゃみたいなものだ。

適齢期の独身男女なら、相手が見つかった時点で廃棄だろうし、子供もいずれは大人になる。

老人は……、仕方のないこともある。

「サトシ。」

私が声を掛けると、外を見ていたサトシが首だけで振り返る。

「お仕事終わった?」

「ああ、終わったよ。」

「じゃ、おいらと遊んでくれる?」

「そうだね、何がしたい?」

「う~ん……。」

サトシは口に指を当てて考える。

私はその仕草にクスッと笑って、ゆっくりサトシに近づく。

サトシの背中を撫で、見下ろすと、サトシが私を見上げて言う。

「まずは……ショウ君にご飯を食べさせたい。」

「ご飯?」

「食べてないでしょ?朝から何も。」

……忘れていた。

確かにコーヒーしか飲んでいない……。

「わかった。では一緒にコンビニに行こうか。」

「コンビニ?」

「コンビニエンスストア。いろんな物が売ってるお店だよ。

 サトシは外に出るのは初めてだね?」

「外?」

私はサトシを持ち上げ、足を折り曲げるとパーカーのポケットにしまう。

手をポケットに引っ掛け、顔を出すサトシ。

「なんかふわふわするよ?」

「布だからね。床や棚のように固くはないね。

 しっかり掴まっているんだよ。」

サトシがしっかりポケットに固定されたのを確認し、

財布と携帯を掴み、反対側のポケットに入れる。

歩きながら、トレイに乗せてある家の鍵をひったくる。

チラッとサトシを見ると、必死にポケットに掴まる姿が可愛く、思わず微笑む。

「大丈夫かい?」

「う、うん。」

サトシは顔を上げることもできず、さらにギュッと布を掴む。

布がサトシのカタチに膨らんで、それを私の手で軽く押さえた。

玄関を出ると、サトシの歓声が聞こえる。

「わぁ~、すごいよ、ショウ君!眩しい!」

「眩しい?今日はそんなに明るくはないよ?」

晴れてはいるが、太陽に雲がかかっている。

私には眩しさは感じられない。

「眩しいよ。いろんな物がキラキラしてる!」

サトシの大きな目は何を映しているのだろう。

初めてみる外の景色は、そんなに輝いて見えるのか?

私達はゆっくり散歩し、サトシの楽しそうな声を聞きながらコンビニに向かう。

「ショウ君!車が走ってる!自転車も!人間もいる!」

サトシにとっては見る物全てが新鮮で、きっと記憶装置はパンク寸前だろう。

私は笑ってサトシの目を手で覆う。

「これ以上見ていたら、サトシが壊れそうだ。」

「そんなことないよ!見せて、見せて!」

サトシが私の手を退けようともがく。

「じゃ、コンビニの中では少し大人しくしているんだよ。」

ポケットに向かってそう言うと、サトシが小さくうなずいた。

私達はそのままコンビニに入り、私の昼飯を買い込む。

なぜかサトシはオリーブオイルを欲しがり、それを買って家路につく。

帰りは行きよりもゆっくり歩く。

サトシがキョロキョロしても落ちないように、手を添えながら。

『12月7日・晴れ 初めてサトシが外に出る』

今日の写真は、家の前の公園のベンチで、

サトシより少し小さいオリーブオイルとサトシの写真。

心なしか、いつもより若干目が大きくなっているような気がする。

そんなわけないのに。










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嵐の大野君が大好きで、山LOVEです♪
腐っているので、ご理解のある方、
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kissからはじめよう
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 Step and Go
    ↓
  果てない空

の順で続いています。
それぞれでも楽しめるようになっていますが、順番に読むと5人の成長がよりわかるのではないかと思います。

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